休職したのに、休めていない。
そう感じている人は、たぶん少なくないと思います。
「とりあえず休みましょう」と言われて、言われた通り休職した。
でも、休み始めた翌日から、何をしていいかわからなくなった。朝が来ても起きる理由がない。
気がつけば昼の3時にカーテンを開けて、夜中の2時にスマホの画面を見つめている。
「ゆっくり休んで」と言ってくれる人はいる。でも、どうやって休めばいいのか、誰も教えてくれなかった。
休んでいるはずなのに、どんどん生活が崩れていく。休職前より疲れている気がする。
そんな自分に「何やってるんだろう」と思う。そういう経験を、あなたもしていないでしょうか。
「休んでいるのに悪化していく」という矛盾
止まった時間の中にいる感覚
休職の最初の数日は、少しだけ楽になります。
- 満員電車に乗らなくていい。
- 上司の顔を見なくていい。
- メールの通知音に体がこわばらなくていい。
でもそのあとに来るのは、解放感じゃなかった。
- 目覚ましをかけなくなる。
- 昼夜が逆転する。
- シンクに食器がたまる。
- コンビニに行く以外の外出がなくなる。
- 風呂に入る気力がない日が続く。
- ゴミ出しの曜日がわからなくなる。
- 洗濯機を回す体力が出ない。
- 回せたとしても、干す気力がなくて洗濯槽の中で一晩放置してしまう。
休んでいるのに、なぜか前より疲れている。
これが「怠け」なのかどうか、自分では判断できません。頭の中では「動かなきゃ」と思っているのに、体が動かない。Twitterを開けば同年代の人が普通に仕事をしている。
そしてその「動けない自分」を見て、また自分を責める。自己嫌悪が、休むための体力をさらに削っていく。その繰り返しが、休職期間の中でずっと続いていく。
朝。カーテンの隙間から光が入る。布団から出られない。時計を見る。もう昼だ。昨日も同じだった。今日も同じだろう。「いつまでこうしているんだろう」。答えは出ない。出ないまま、また夜になる。
「いつ復帰するの」という問いの重さ
休職中にいちばんしんどい質問は、「最近どう?」ではなく「いつ頃戻れそう?」かもしれません。
家族から聞かれる。主治医に聞かれる。人事からメールが来る。悪意はないんです。心配してくれているだけなのもわかっている。でも、その質問に答えられないこと自体が、自分を追い詰めていく。
「戻りたいけど、戻れる気がしない」
この感覚をうまく言葉にできないまま、「もう少しかかりそうです」と返すしかない。そのたびに、自分がどんどん社会から遠くなっていくような気がしてくる。
友達からのLINEに返信するのも重い。「何してるの?」に正直に答えたら心配されるし、嘘をつく気力もない。既読だけつけて、そのまま閉じる。
正直に書きます。当店に相談に来られる休職中の方の多くが、「休職して楽になるはずだったのに、休職自体がストレスになっている」とおっしゃいます。
休職したことで人と会わなくなり、生活リズムが完全に崩れ、自己嫌悪が強まるという流れは、特に珍しいことではありません。
そしてこの状態が何週間も続くと、「自分は怠けているだけじゃないか」「もう社会に戻れないんじゃないか」という考えが頭の中を占領し始める。これは気合いの問題じゃないんです。
生活の「仕組み」が崩れたまま放置されている状態なんです。でも、一人でそこに気づくのは本当に難しい。
「元に戻る」を目標にすると、苦しくなる理由
復職準備=以前の生活の再現、ではなかった
「もとの状態に戻す」。復職の準備というと、多くの人がそう考えます。以前と同じ時間に起きて、同じ時間に寝て、同じ仕事をこなす。そこに戻ることがゴールだと。
でも、もとの状態が自分を壊した原因だったとしたらどうでしょう。
無理な仕事量を抱え込んでいた。断れなかった。早朝から深夜まで気を張り続けていた。昼休みも実質は作業時間だった。通勤だけで疲弊して、家に帰ったら何もできなかった。
その結果、体と心が限界を超えた。そこに「もとの生活リズムに戻しましょう」と言われても、戻った先にあるのは同じ壊れ方かもしれない。
ここで少し視点を変えてみます。
休職から復職への道を考えるとき、「以前の自分に戻る」のではなく、「今の自分に合った暮らしの形を新しく作る」と捉えたほうが、実際にはうまくいく場合があります。
これは気持ちの持ちようの話ではなくて、生活の仕組みの話です。何時に寝て何時に起きるか。一日のうちどの時間帯に体が動きやすいか。どの家事は一人でできて、どの手続きが止まっているか。
買い物は週に何回行けているか。郵便物は溜まっていないか。そういう「暮らしの棚卸し」のようなことを、誰かと一緒にやる。
この「誰かと一緒に」がものすごく大事なのに、休職中はそれがいちばん難しいんです。
もしかしたら、生活が崩れている背景には、仕事のストレスだけでなく、もともとの特性が関わっていることもあります。先延ばしグセ、マルチタスクの苦手さ、感覚的なしんどさ。
そういった特性と休職の関係について書いた記事もあるので、気になる方は頭ではわかってる。でも手が動かない。——発達特性グレーの私の毎日を読んでみてください。
「まず生活を整える」は、気合いの問題じゃない
「復職に向けて、まず生活リズムを整えましょう」。主治医にも、リワーク施設でも言われます。でもそれが気合いでできるなら、たぶん休職していません。
朝7時に起きると決めても、前日の夜に眠れなければ起きられない。眠れない原因は、不安かもしれないし、スマホを見続けてしまう癖かもしれないし、部屋の環境かもしれない。「早く寝なさい」だけでは何も解決しません。
ここで必要なのは「なぜ眠れないか」「なぜ朝起きられないか」を、感情ではなく行動と環境の問題として見る視点です。寝室にスマホを持ち込まない仕組みを作る。
起きたらまずカーテンを開ける導線を作る。朝食は前日の夜に用意しておく。こうした具体的な「仕組み」をひとつずつ試していく。
リワークプログラムに通える人はそれでいいかもしれません。でも、リワークに通う体力すらない段階の人もいます。外出自体がしんどい。電車に乗ることが怖い。集団の中に入る気力がない。そういう人にとって、「まずリワークに行きましょう」はハードルが高すぎることがある。
書きながら思ったんですが、この「仕組みで解決する」という考え方は、自分ひとりだとなかなか出てこないんですよね。詰まっている渦中にいると、全部が「自分のやる気の問題」に見えてしまう。
だから、外から見てくれる人がいると、少しだけ景色が変わることがあるんです。友達に「大丈夫だよ」と言われても変わらなかったことが、「ここが詰まってるんじゃない?」と指摘されると、ふと動き出すことがある。
「生活のどこで詰まっているか」を見る人がいること
当店には、作業療法士の資格を持つフレンドが在籍しています。
作業療法士というのは、病院でリハビリに携わる国家資格の専門職です。ただ、その人がレンタルフレンドとしてここにいる意味は、リハビリをしてくれることではありません。
「暮らしのどこで詰まっているか」を見る目を持っているということです。
たとえば、「朝起きられない」を「やる気の問題」ではなく「睡眠環境と夜の行動パターンの問題」として見る。
「部屋が片づけられない」を「だらしなさ」ではなく「手順の分解と優先順位づけの問題」として見る。
「料理ができない」を「やる気がないから」ではなく「買い物→下準備→調理→片づけという連続した工程のどこで詰まっているか」で見る。
感情ではなく、行動と環境を見る。そういう訓練を日常的にしている人です。
当店のフレンド・ひなたは、病院で作業療法士として働いている23歳の女性で、職場復帰や生活の立て直しを日々の仕事にしています。
もちろん、レンタルフレンドとしての時間の中で医療行為をするわけではありません。診断も、治療計画も、処方もしません。でも、「生活の詰まりを見る目」を持った人と一緒に過ごす時間には、友達の励ましとも、カウンセラーの傾聴とも違う何かがあります。
ある方は、復職前の時期にフレンドと何度か会ったあとで「生活リズムが戻ったというより、新しいリズムが見つかった感覚がある」とおっしゃっていました。元に戻ったんじゃない。今の自分に合う形を、一緒に探した。それだけのことなのに、それまで一人ではどうしてもできなかった。
一方で、1回で終わった方もいます。合わなかったのか、タイミングが違ったのか、それは私にはわかりません。全員にフィットするとは言えない。
でも、「今の生活のどこが詰まっているか」を、感情ではなく構造として見てくれる人がいるという選択肢を、知らないままでいるのはもったいないとは思っています。
「やさしい人」が欲しかったんじゃない。「現実に動ける人」が必要だったという記事で、もう少し詳しく書いています。「話を聞いてもらう」だけでは足りなかったとき、何が違ったのか。気になった方はそちらも読んでみてください。
完璧に整ってから復帰しなくていい
復職のタイミングを待っている人の中に、「完璧に生活を整えてから復帰しなければ」と考えている人がいます。朝ちゃんと起きて、食事をして、身だしなみを整えて、電車に乗れるようになって、初めて「復帰していい」と思える状態になる、と。
でもその完璧な状態は、復帰してからでないと作れない部分もあります。生活は、実際に動き始めないと形が見えてこないからです。
もうひとつ、休職中の方からよく聞く言葉があります。「こんなことで人に頼っていいのかわからない」。部屋が散らかっていること、朝起きられないこと、ゴミが出せていないこと。
そんなことを誰かに話すのは恥ずかしい、と。でも、そういう「些細に見える詰まり」こそが、生活全体を止めている原因だったりします。大きな問題を抱えている人だけが頼っていいわけじゃない。
大事なのは「完璧な準備」じゃなくて、「崩れたときに立て直す方法を知っている」ことかもしれません。一人で全部やろうとしなくていい。
週に一回、誰かと話しながら「今週はここが詰まっていた」「来週はここだけ変えてみよう」と確認する。そういう小さな伴走が、復職前の時間を少しだけ軽くすることがあります。
ここは正直、私もまだ答えが出ていない部分があります。「レンタルフレンドが復職支援になるのか」と聞かれたら、なるとは断言できません。
当店は医療機関でもリワーク施設でもないし、そのつもりもありません。ただ、「生活の中の詰まりを一緒に見る」ことが、結果として復職前の準備を少しだけ楽にする可能性はあると、現場を見ていて感じています。
「動けない日が続いている」と気づいたとき、私が最初にしたことというシリーズの最初の記事では、「生活が止まっている」感覚そのものについて書いています。
休職に限らず「何かが詰まっている」と感じている方は、そちらも目を通してみてください。
一人で抱え続けなくていい。でも、いきなり大きく動く必要もない。
「ちょっと話してみたい」くらいの気持ちがあれば、それで十分です。整理がついてなくても、何を話したいかまとまっていなくても、ぐちゃぐちゃのまま来てくれていい。当店は、そういう場所です。

