「友達レンタル」に見る現代の孤独と人間関係の本質

「友達をレンタルする」

この言葉を聞いて、あなたはどう感じますか？

ちょっと奇妙に聞こえるかもしれませんね。

私たちが子どもの頃から教わってきた「友情」とは、時間をかけて育む、心と心のつながりのはず。

でも最近、友人代行やレンタルフレンドといったサービスが、意外と身近な存在になっているようです。  

• 結婚式に代理で出席してもらったり
• SNS映えする写真を一緒に撮ってもらったり

時には「おっさんレンタル」なんていうユニークなサービスまであります。

少し前はコロナ禍では「人を誘いにくいから」という理由が多かったのですが、最近では「人混みが苦手だから付き添ってほしい」「お店の待ち時間に話し相手がほしい」といった理由が増えています。

なんだか不思議ですよね。お金を払って、一時的な「友達」を求める。

この現象の裏には、一体どんな気持ちが隠れているのでしょうか？

そして、それは現代を生きる私たちの人間関係について、何を教えてくれるのでしょう？

この記事では、そんな「友人レンタル」の裏側にある、私たちの心の動きを、少し深く探ってみたいと思います。

なぜ人は、お金で「都合のいい友人」を買おうとするのか。その理由を一緒に考えてみませんか。

口に出す理由、心の中の理由

まず、皆さんが友人レンタルを使う「表向きの理由」を見てみましょう。

コロナ禍の真っ只中では、「誰かを誘うことへのためらい」が大きな理由だったようです。

相手がどれくらい感染対策を気にしているか分からないし、もし考え方が違ったら気まずくなるかもしれない… それなら、気兼ねなく頼めるレンタルフレンドの方が楽、というわけです。

これは、人間関係の面倒な部分を避けたい、という気持ちの表れかもしれませんね。

そして今、街に人が戻ってくると、理由は少し変わってきました。

• 「一人で人混みに行くのは気が重いから、誰かに付き添ってほしい」
• 「人気のお店に並ぶ長い待ち時間、一人だと退屈だから」

といった声が増えています。

まるで、ストレスを和らげるための「お守り」や、退屈な時間をやり過ごすための「話し相手」を求めているかのようです。

ここで面白いのは、多くの人が共通して挙げる魅力が「気遣いがいらない」こと。

実際の友人や同僚には、どうしても気を遣いますよね。

「楽しんでるかな？」「迷惑じゃないかな？」って。

でも、レンタルフレンドは仕事として一緒にいるわけですから、そうした心配は無用。

つまり、友情に伴う責任や感情的なやり取り抜きで、「一緒にいる」という機能だけを享受できる。

これが、このサービスの分かりやすい価値提案なんですね。

水面下に隠された、本当の気持ち

でも、私たちが口にする理由は、氷山の一角かもしれません。

その下には、もっと深い、時には自分でも気づいていない気持ちが隠れているのではないでしょうか。

1. 「ひとりぼっち」は、やっぱり寂しい

現代社会は、なんだか孤独を感じやすい時代だと言われます。昔ながらの地域のつながりは薄れ 、家族の形も多様化し、一人暮らしの人も増えました 。

特にコロナ禍は、物理的な距離だけでなく、心の距離も広げてしまったように感じます 。

そんな中で、友人レンタルは、一時的に「誰かといる」感覚を与えてくれる、手軽な処方箋なのかもしれません 。

たとえお金で買った関係だとしても、ほんの少しの繋がりが、心の支えになることもあるでしょう 。  

2. 人付き合いって、難しい…

新しい友達を作るのって、結構エネルギーがいりますよね。断られたらどうしよう、嫌われたらどうしよう、と不安になったり 、そもそもどうやって話しかけたらいいか分からなかったり。

レンタルフレンドなら、お金を払っている以上、拒絶される心配は少ないし、相手はプロとして、にこやかに接してくれるはず 。傷つくリスクを避けたい、という気持ちも、このサービスを選ぶ理由の一つかもしれません 。

本当の友達になるには、自分の弱い部分を見せる必要もあるけれど 、それはちょっと怖い…と感じる人もいるでしょう。  

3. 「いいね！」が欲しい？ 認められたい気持ち

誰だって、人から良く見られたい、認められたい、という気持ち（承認欲求）を持っていますよね 。特にSNSが普及した現代では、その傾向が強まっている気もします。  

友人レンタルが、この「認められたい」気持ちを満たすために使われる場面も少なくないようです。

• 結婚式やパーティーに代理出席してもらう： 「友達がたくさんいるように見せたい」「席が空いていると格好がつかない」… これは、周りの目を気にする気持ちの表れかもしれません。  
• SNSで「リア充」アピール： レンタルフレンドと撮った楽しそうな写真をアップして、「充実してる私」を演出する 。これも分かりやすい承認欲求の満たし方ですね。  
• 謝罪に付き添ってもらう： 一人では心細い状況で、誰かが隣にいてくれるだけで、少し気持ちが落ち着く。もしかしたら、相手への印象を和らげる効果も期待しているのかもしれません。

まるで、足りない部分を補う「義手」や「義足」のように、友人レンタルが社会的な機能を果たしているようにも見えます。

本来なら自然な人間関係が担うはずの役割を、一時的に肩代わりしている、と言えるかもしれません。

お金で買う「つながり」の、ちょっと不思議な魅力

友人レンタルの魅力は、単に寂しさを紛らわしたり、体裁を整えたりするだけではありません。その「お金を介した関係」という性質自体が、私たちの心に響く部分があるようです。

1. 思い通りになる関係？

お金を払うサービスには、ある種の「コントロール感」があります。いつ、どこで、誰と、どんな風に関わるか、基本的には利用者が決められます 。

現実の友達付き合いのように、「今日は気分が乗らないな」「急に予定が変わった」なんていう予測不能なことは起こりにくい。

この「思い通りになる」感じが、不確実な現代社会や、人間関係に疲れを感じている人にとっては、魅力的に映るのかもしれません。  

2. 深入りしない、軽やかな関係

「誰かと深く関わるのは、ちょっと怖い」「責任を負うのは避けたい」… そんな風に感じることはありませんか？ これは「コミットメント恐怖症」なんて呼ばれたりもするようです 。

過去の傷ついた経験が原因だったり 、自分の自由がなくなるのが嫌だったり 、理由は様々ですが、深い関係を築くことに無意識のブレーキがかかってしまう。  

友人レンタルは、まさにこの「深入りしたくない」気持ちにぴったり合います。関係はあくまで一時的。感情的に深く関わる必要も、自分の弱い部分を見せる必要もありません 。

契約が終われば、関係もきれいさっぱり終了。後腐れがない、とも言えるかもしれません。

これは、関係を維持するための努力（接近コミットメント）よりも、関係が終わることの面倒さ（回避コミットメント）を避けたい心理 や、現状維持を望む心理（功利的コミットメント） とも、どこか通じるところがありそうです。  

3. 嫌な気分は、見ないふり？

心理学には「体験の回避」という言葉があります 。これは、不安や悲しみ、退屈さといった、自分にとって嫌な感情や考え、感覚に直面するのを避けようとすること 。

友人レンタルも、この「体験の回避」の一つの形と見ることができるかもしれません。  

• 「寂しい」という気持ちを避けるために、誰かの存在を確保する。
• 人前で感じる「不安」を避けるために、評価の心配がない相手を選ぶ 。  
• 友達を作る過程での「気まずさ」や「断られるかもしれない痛み」を避ける 。  
• 一人で待つ「退屈さ」を避ける。

嫌なことから目をそむければ、一時的には楽になりますよね 。でも、皮肉なことに、避けようとすればするほど、その感情に囚われてしまったり、本当に大切なことから遠ざかってしまったりすることもあるんです 。

友人レンタルは、人間関係の「面倒な部分」や「痛みを伴うかもしれない部分」を回避する手段を提供している、とも言えそうです。  

「都合のいい友人」が映し出す、今の社会

友人レンタルという現象は、個人の心の問題だけでなく、私たちが生きる社会のあり方とも深く関わっています。

昔ながらの「つながり」の変化

かつては、地域社会（地縁）、家族や親戚（血縁）、会社（社縁）といった、もっと安定した人間関係のネットワークがありました 。でも、今はどうでしょう？

核家族や一人暮らしが増え 、ご近所付き合いも減り 、会社も終身雇用が当たり前ではなくなりました 。こうした変化の中で、人々は以前よりも孤立しやすくなっているのかもしれません 。

友人レンタルは、こうした失われつつある「つながり」の隙間を埋めるように現れた、とも考えられます。  

自由と孤独のあいだで

個人の自由が尊重される社会は、素晴らしいことです 。でもその一方で、「自由」は「孤独」と隣り合わせでもあります 。自分で積極的に動かないと、なかなか人とのつながりは生まれません 。

私たちは、「自由でいたいけど、一人ぼっちは寂しい」という、ちょっと矛盾した気持ちを抱えがちです 。友人レンタルは、そんな現代人の気持ちに、ある意味で応えてくれるサービスなのかもしれません。  

テクノロジーと社会の変化

スマホアプリなどで簡単にサービスを予約できるようになったことも、利用を後押ししているでしょう。また、経済的な余裕のなさや忙しさから、じっくり人間関係を育む時間がない、という現実もあるかもしれません 。

そんな中で、お金を払って手軽に「友達のような存在」を得られるサービスは、ある意味、効率的で合理的な選択肢に見えるのかもしれませんね 。  

こうして見ると、友人レンタルは、単なる新しいビジネスというだけでなく、私たちの社会や人間関係が大きく変化していることの表れ、と言えそうです。

最後に：私たちは、どんな「つながり」を求めているのだろう？

友人レンタルというサービスを覗いてみると、そこには、私たちが普段あまり意識しない、様々な気持ちが隠れていることが分かります。

寂しさ、人付き合いの難しさ、認められたい気持ち、そして、面倒なことや嫌なことから逃れたいという気持ち…。

このサービスは、利用者にとって一時的な安らぎや、具体的な助けになることもあるでしょう 。でも同時に、少し立ち止まって考えてみたいこともあります。  

人間関係の難しさから目を背けるためだけに、こうしたサービスに頼ってしまうとしたら、それは本当に自分のためになるのでしょうか？

友情という、本来はお互いを思いやり、時間と心をかけて育むものを、お金で簡単に手に入れられるもの、と考えてしまうとしたら…？

それは、長い目で見た時に、私たちが人と心を通わせる力を、少しずつ弱めてしまうことにはならないでしょうか。  

友人レンタルは、私たちに問いかけているのかもしれません。現代社会で、私たちはどんな「つながり」を本当に求めているのか、と。

便利さや効率ばかりが重視される時代だからこそ、「面倒」で「時間のかかる」、でも「かけがえのない」本物のつながりの価値を、もう一度見つめ直す時なのかもしれませんね。

あなたにとって、「つながり」とは何ですか？