【オーナーコラム#26】夜の電話で「おやすみ」を言い合うだけの時間

【オーナーコラム#26】夜の電話で「おやすみ」を言い合うだけの時間

夜の11時を過ぎた頃に、フレンドから業務報告が届くことがある。

「今日の通話は30分でした。最後に『おやすみなさい』と言って終わりました」

それだけの報告。でも、その短い文面を読んで、私は少し立ち止まることがある。

おやすみなさい、と誰かに言う。誰かから、おやすみなさい、と返ってくる。たったそれだけの一往復。でもその交換が、夜の輪郭をやわらかくすることがあるのだと思う。

そういう時間がこのサービスの中に生まれていることを、最近よく考えている。

目次

暗い部屋で声だけが聞こえる、あの感じ

夜の通話を選ぶ方には、ある共通点があった。

昼間は元気に過ごせている。仕事もこなせるし、買い物にだって行ける。でも夜になると急に心細くなる。部屋が静かすぎて、自分の考えごとの音量だけが上がっていく。そういう方が多い。

ある方はこう言っていた。「昼間はなんともないんです。でも夜、布団に入ると急にいろんなことが浮かんできて、眠れなくなるんです」

私はその感覚を聞いたとき、少し黙った。わかる気がしたからだ。

夜は防御力が下がる。昼間は気にならなかったことが、暗い部屋の中では輪郭を持って近づいてくる。それは気のせいではない。たぶん人間はそういうふうにできている。

通話だからこそ生まれる距離感

対面だと、どうしても相手の顔を見なければならない。目を合わせることからも逃げられない。それが苦手だという方は多い。

通話は違う。暗い部屋の中で、スマホを枕元に置いて、天井を見ながら話してもいい。相手の表情を気にする必要もない。自分の顔も見られていない。

その距離感が、夜の話し相手としてちょうどいいのだと思う。

以前、通話コースについて書いたことがあるけれど、あのときは「外に出るのがしんどい方」のことを中心に考えていた。でも夜の通話は、もう少し違う意味合いがある。

出られないから通話を選ぶのではなく、夜という時間帯そのものに、声だけの対話がしっくりくる。そういう方がいる。

「誰かの声が聞こえるだけでいいんです」

ある方の通話は、いつも20時半頃から始まった。

お風呂上がりの、髪を乾かした後。パジャマに着替えて、温かい飲み物を用意して。そこから30分くらい、フレンドと電話する。

話す内容は日によって違ったらしい。今日あったこと、最近気になっていること。たまに何も話題がない日もあったそうだ。

その方がフレンドに言ったらしい。「話す内容より、誰かの声が聞こえるだけでいいんです。静かすぎるのがつらいから」

フレンドからその報告を聞いたとき、私は少し胸が詰まった。

静かすぎるのがつらい。その感覚を、たぶんこの方は誰にも言えずにいたのだと思う。友達に「夜が寂しい」と言うのは、思っている以上にむずかしい。

弱みを見せているような気がするし、心配をかけてしまうとも思う。それに、言ったところで相手にどうしてほしいのか自分でもわからない。ただ聞いてほしいだけなのに、その「ただ」を伝えるのが一番むずかしい。

フレンドの報告によると、その方は通話中に長い沈黙があっても気にしなかったという。沈黙が怖いのではなく、沈黙を一人で抱えるのがつらかったのだろうと、私はそう受け取った。

ふと思い出したことがある。私自身、一人暮らしを始めた頃、テレビをつけっぱなしにして寝ていた時期があった。誰かの声が聞こえていないと、夜の静寂が重くて。

あの頃の自分に、このサービスがあったら使っていただろうか。たぶん、使わなかったと思う。「こんなことで人に頼るなんて」と思って。でも、あのときの私は本当はつらかったはずだ。

寝落ちしてもいい時間

うちの通話コースは、途中で眠ってしまっても構わない。

寝落ちしたら、フレンドはしばらく待って、静かに電話を切る。翌朝LINEで「おやすみなさい、ぐっすり眠れていますように」と一言送る。それだけだ。

「ふたりしずかに」の通話コースをそういう運用にしたのには、理由がある。

ある方が、通話の途中で「すみません、眠くなってきました」と言ったことがある。フレンドが「大丈夫ですよ、そのまま寝てください」と返して、その方はそのまま眠ってしまったらしい。

翌日の報告メッセージにはこう書いてあった。「寝落ちしたのに、なぜか安心して眠れました」

それを聞いて、私はこの時間の本質が少しわかった気がした。

話を聞いてほしいのではないのかもしれない。アドバイスがほしいのでもない。ただ、誰かの気配がある中で、安心して目を閉じたい。そういう夜があるのだ。

これは私の感覚だけれど、夜に寂しいと感じることに後ろめたさを持っている方は多い。大人なのに、一人で眠れないなんて、と。

でも、それは弱さではないと思う。人間は群れで暮らす動物だ。一人きりの夜が不安なのは、むしろ自然なことだ。

おやすみなさいの重さ

最近、フレンドの一人がこんなことを教えてくれた。

「夜の通話の方で、最初は全然しゃべらなかった人がいたんです。でも3回目くらいから、少しずつ話してくれるようになって。先日、初めて自分から『おやすみなさい』って言ってくれたんです」

たったそれだけの話だ。でも、フレンドがそれを嬉しそうに報告してくれたことが、私にはうれしかった。

自分から「おやすみなさい」を言う。それはつまり、この時間が終わることを受け入れるということだ。「また明日」を信じられるということだ。小さなことに聞こえるかもしれない。

でも、夜が怖い人にとっての「おやすみなさい」は、たぶん昼間の挨拶とは重さが違う。

私はそのフレンドの報告を読みながら、少し考えた。「おやすみなさい」って不思議な言葉だ。眠る前に、わざわざ相手に声をかける。一人で黙って眠ればいいのに、そうしない。人はなぜ、眠る前に誰かの名前を呼びたくなるのだろう。うまく言えないけど、そこに何かがある気がしている。

育児中の方が夜の通話を利用されることもある。子どもを寝かしつけた後の、ぽっかり空いた時間。

大人と話したい、でも友達に電話するには遅い時間。そういう隙間に、このサービスが入り込むことがある。

夜の通話が合わない方もいると思う。声を聞くことで余計に寂しくなる方もいるかもしれない。私はこの使い方が万能だとは思っていない。

でも、ある方にとっては、夜の30分の通話が一日の終わりの儀式みたいになっていた。そのことを、私はとても大事にしたいと思った。

今夜もどこかで、フレンドの「おやすみなさい」が誰かに届いている。

その声が届いた瞬間に、少しだけ部屋が広くなるような。そういう時間が続いていけばいい。

→ 次の話:「今日は何も相談しなくていいですか?」って聞かれて嬉しかった話

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