「予約ボタン、押すまで1ヶ月かかったんですよね」
その方は、カフェでアイスティーを受け取りながら、笑って言った。
初回の利用が終わって、少し緊張がほぐれたタイミングだったと思う。
フレンドが席を外した数分間に、ぽつりと私に話してくれた言葉だった。
1ヶ月間、あの方は何をしていたのか
「サイトは何回も見ました。フレンドさんのプロフィールも全部読みました。料金ページも3回くらい確認して。でも、最後のボタンだけがどうしても押せなかったんです」
そうおっしゃっていた。
私はそのとき、少し黙ってしまった。
返す言葉が見つからなかったのではなく、その1ヶ月の重さを想像していたからだと思う。
スマホの画面に表示された予約ボタンを、何度も見つめては閉じる。
お風呂に入りながら「やっぱりやめようかな」と考える。
寝る前にもう一度サイトを開いて、フレンドの顔写真をじっと見る。そして、画面を暗くする。
その繰り返しが、1ヶ月。
「こんなことで迷ってる自分がバカみたい」
その方が続けて言ったのが、この言葉だった。
レンタルフレンドを初めて予約することが、そんなに大ごとかと思う人もいるかもしれない。
ボタンを押して、日時を選んで、決済する。手順としては数分で終わる。
でも、その数分にたどり着くまでの時間の長さを、私はこの仕事を始めてから何度も聞いてきた。
「怖かった」と言った方もいる。「恥ずかしかった」と言った方もいる。
「友達をお金で頼むなんて、自分がどうかしてるんじゃないかと思った」と正直に話してくれた方もいた。
私は、その気持ちをおかしいとは思わない。
むしろ、それだけ迷えるということは、自分の感情にちゃんと向き合っている証拠なんじゃないかと、最近は思うようになった。
迷いの中身は、たぶん「自分」に向いている
これは私の感覚だけれど、予約を迷っている方のほとんどは、サービスの内容に不安を感じているのではない気がする。
迷いの矛先は、サービスではなく自分自身に向いている。
- 「こんなサービスを使わなきゃいけないほど、自分には人がいないのか」
- 「友達が少ないのは自分の性格のせいだ」
- 「もっとうまくやれる人は、こんなことで悩まない」
そういう声が、頭の中でぐるぐる回っているんだと思う。
予約ボタンを押すことが怖いのではなく、押した瞬間に「自分はそういう人間なんだ」と認めてしまうような気がして、手が止まる。
ここまで書いて、ふと思い出したことがある。私自身、このサービスを始めるとき、知り合いに話すのがすごく怖かった。
「レンタルフレンドをやるんだ」と言ったら、どう思われるだろうと。
利用する側だけじゃなく、運営する側にも、似たような後ろめたさがあった。たぶん今も、完全には消えていない。
あの方が笑えたのは、たぶん「終わったあと」だったから
「1ヶ月かかった」と笑えたのは、利用してみた後だったからだ。
利用する前のその方は、きっと笑えなかったと思う。画面の前で、一人で、迷い続けていた。
私がこのエピソードを書いているのは、「うちのサービスを使えば笑えるようになりますよ」と言いたいわけじゃない。
ただ、1ヶ月迷ったその時間は、無駄じゃなかったんだろうなと思う。あの方にとって必要な時間だったのだろうと。
「迷っているなら早く申し込みましょう」とは言えない
正直に言う。
レンタルフレンドを初めて利用するのは、怖いと思う。
何を話せばいいかわからないし、フレンドがどんな人かも会うまでわからない。
お金を払ってまで人に会う自分を、どう受け止めていいかもわからない。
そのことについて、私は「大丈夫ですよ」と軽く言いたくない。
「何を話せばいいかわからない」という声は本当に多くて、そのことについては別の回で書いている。
もしこのサービスが怪しいんじゃないかと感じているなら、それも当然の感覚だと思う。
迷っている時間に、焦りを足したくはない。
あの方が1ヶ月かけたように、あなたにも必要な時間があるなら、それでいいと私は思っている。
このコラムを読んでいる時間が、その「迷い」の一部だとしても、それはちゃんと意味のある時間だと思う。
あの方がアイスティーのグラスを持ちながら「1ヶ月かかったんですよね」と笑ったあの瞬間は、私のほうが少し救われた。
うまく言えないけれど、この仕事を続けていてよかったと、胸のあたりが温かくなったのを覚えている。

