「何を話せばいいかわからない」
予約を迷っている方から、いちばん多く届く言葉がこれです。メールでも、LINEでも、お問い合わせフォームでも。文面は違っても、根っこにある不安は同じ。
「沈黙になったらどうしよう」「気まずい空気を作ってしまったら申し訳ない」。
今回は、その不安に対する答えとして、実際に「話すことがなかった」方のエピソードを紹介します。
ネタバレを先に言うと、その方は帰り際に「これでよかったです」と言ってくれました。
60分のうち、半分は黙っていた方の話
20代後半の方でした。初めてのご利用で、通話ではなく対面コースの60分を選ばれていました。
待ち合わせのカフェに来てくださったとき、最初に言われたのが「すみません、本当に話すことないかもしれません」。謝ることじゃないですよ、と担当フレンドが返したそうです。
最初の20分で起きたこと
飲み物を注文して、少し自己紹介をして。フレンドが趣味のことを聞いたら「特にないです」と返ってきた。そこからしばらく、二人ともコーヒーを飲んでいただけだったと聞いています。
普通なら焦りますよね。でも、うちのフレンドはそこで話題を変えたり、質問を重ねたりしません。
それは訓練でそうしているんじゃなくて、もともと沈黙を怖がらない人を選んでいるからです。
黙っていられる人でなければ「ふたりしずかに」のフレンドは務まらない。採用のときに、私がいちばん見ている部分かもしれません。
30分過ぎたあたりで、ぽつりと
「最近、会社で異動があって」と、その方が話し始めたのは30分を過ぎたころでした。堰を切ったように、とまでは言いません。ぽつり、ぽつりと。言葉を選びながら。
フレンドはそれを遮らず、相槌を打ちながら聞いていたそうです。途中でまた沈黙があって、また少し話して。60分はそうやって過ぎていきました。
帰り際に「話すことないって言ったのに、けっこう話しましたね」と笑って、「これでよかったです」と。
正直に書くと、私はこのエピソードを聞いて少し安心しました。サービスを設計したとき、「沈黙を許容する空間」が本当に成立するのか、確信があったわけではなかったからです。
「話さなきゃ」というプレッシャーの正体
ちょっと話がそれますが、「話すことがない」と感じるとき、本当に話すことがゼロなわけではないと私は思っています。
頭の中には、いろいろ渦巻いている。でも「これを言っていいのかわからない」「こんなこと話してもつまらないんじゃないか」「相手に気を遣わせたくない」。そういうフィルターが何重にもかかっている。
友人相手でもそのフィルターが外れない方が、うちのサービスを使ってくれています。
だからこそ、フレンドは「話を引き出す」スタンスを取りません。引き出そうとされると、余計に構えてしまう方のほうが多いので。
沈黙のあいだ、フレンドは何をしているのか
よく聞かれるので、これも正直に答えます。
フレンドは沈黙のあいだ、特別なことはしていません。コーヒーを飲んでいるか、窓の外を見ているか、手元のメモをぼんやり眺めているか。
目を合わせ続けるわけでもなく、スマホを触るわけでもなく。ただ「そこにいる」だけです。
これがカウンセリングなら、沈黙にも専門的な意味づけがあるでしょう。
でもレンタルフレンドはカウンセリングではありません。治療的な意図はないし、分析もしない。ただ、あなたのペースに合わせて同じ場所にいるだけ。
書きながら思ったのですが、「ただ、そこにいるだけ」が仕事として成立するのは、ちょっと不思議なことかもしれません。
でも実際に「それがよかった」と言ってくれる方がいる。それが事実です。
もうひとつ、別の方のエピソード
40代の方で、通話コースを選ばれた方のケースも紹介させてください。
30分の通話コースで、最初の10分ほどは天気の話とか当たり障りのない会話をしていたそうです。でも15分くらいから会話が途切れて、「聞いてるだけでもいいですか」とおっしゃった。
フレンドが「もちろんです」と答えると、そのまま5分くらい沈黙が続いたらしいです。
通話で5分の沈黙は、対面よりもちょっと勇気がいる気がしますよね。相手の表情が見えないから。でもその方は後日「電話で黙ってていい経験って初めてでした」と感想をくださいました。
全員がこういう感想を持つわけではありません。「もっと話したかった」「沈黙が気まずかった」という声もゼロではないです。合う・合わないはどうしてもある。
ただ、「話すことがない」が理由で利用をためらっている方には、「話さなくても時間は成立しますよ」と伝えたいのです。
「沈黙OK」は仕組みであり、文化です
「ふたりしずかに」が沈黙を許容できるのは、精神論ではなく仕組みの話です。
まず、フレンドの採用基準。応募してくださる方のなかには、「話を聞くのが好き」「場を盛り上げるのが得意」というタイプの方もいます。
でも、うちで活躍してくれるのはそのタイプとは少し違う。「黙っていても平気で、相手の沈黙にも動じない」。これは性格の問題であって、スキルで補えるものではないと私は考えています。
現在登録している22名のフレンドは、全員がそういう気質を持っている方です。
なかには作業療法士や看護師など医療・介護分野の国家資格を持つ方もいます。ただ、資格があるから沈黙に強いわけではなく、もともとの性格として「人といるけど静かでいられる」方を選んでいます。
もう一つ、サービスの対象を内向的な女性に限定していることも大きいと思います。お互いに静かなほうが心地よいタイプ同士だから、沈黙が「失敗」にならない。
これは「ふたりしずかに」のコンセプトにも書いていますが、「内向的な人専用」にした最大の理由のひとつがここにあります。
この話については、沈黙の時間について私がもう少し踏み込んで書いたオーナーコラムもあります。今回の記事が「実例」の紹介なら、あちらは「沈黙とは何だったのか」を運営者の目線で書いたものです。テイストが違うので、興味があれば読んでみてください。
話すことがなくても、60分は過ごせます
ここまで読んで「本当にそうなの?」とまだ疑っている方もいると思います。それはそうですよね。文章で書かれたエピソードだけで安心できるなら、誰も迷わない。
ただ、一つだけお伝えしたいのは、「話すことがない」は申し込みを止める理由にはならないということです。話すことがある方も、ない方も、ここでは同じように時間を過ごせます。
対面60分が不安なら、通話15分のお試しもあります。15分なら、沈黙になっても「あっという間」で終わりますから。
この不安にもっと踏み込んだ回答は、「話すことがないんですけど…」と言われたら、私はこう答えますで書く予定です。今回は実例の紹介でしたが、そちらでは運営者としての考えを正面からお伝えします。
次の記事では、通話だけ・15分だけの利用でも意味があった方の話を紹介します。「対面はまだ怖い」という方にこそ読んでほしい内容です。

