「自分が嫌い」と何度も口にしていた方が、あるとき「少し好きになれた気がします」と伝えてくれた。
自己肯定感が低いことに苦しむ人に、私たちができるのは励ますことじゃない。
何も否定しない時間を、ただ差し出すことだった。
「好きにならなくていい」と言った日のこと
ある方から、こんなメッセージが届いた。
「自分のこと、少し好きになれた気がします」
LINEの画面を見たまま、私はしばらく動けなかった。
その方は、初回のときからずっと「自分が嫌い」という言葉を繰り返していた。何かを話すたびに「すみません、つまらない話ばかりで」と謝る。フレンドが「そんなことないですよ」と返しても、うまく受け取れないでいた。
自己肯定感が低い、という言葉がある。よく使われるし、本もたくさん出ている。でもこの仕事をしていると、その言葉で片づけてしまうには重すぎるものを抱えた方に出会うことがある。
自分を嫌いだと思っている方は、たいてい自分を責めている。友達が少ないことも、うまく話せないことも、誰かに頼ることも、ぜんぶ「自分がダメだから」に帰着させてしまう。
以前、「人見知りは直すもの」という思い込みについて書いたことがある。→その話はこちらで あの呪いと似ている。自分に向けた「こうあるべき」が、じわじわと自分自身を削っていく。
責めているのは、他でもない自分
その方は30代だった。仕事ではそれなりにやれている、と本人はおっしゃっていた。でも人間関係になると急に自信がなくなる。「みんな普通にできてることが、私にはできない」。そう言って、少し黙った。
私はそのとき、何も返せなかった。
うまく言えないけど、「あなたは悪くないですよ」と言うのは簡単だ。でもそれは本人がいちばん聞き飽きた言葉だろうと思った。周囲の人がそう言えば言うほど、「わかってもらえていない」と感じることがある。たぶん。
その方にとって必要だったのは、励ましじゃなかった。
フレンドは、ただ聞いていた。相槌を打って、ときどき「それはしんどいですね」と返すくらいで。でも3回目くらいから、その方の口調がすこし変わった。「すみません」が減って、「あのね」が増えた。
フレンドからの報告を読みながら、私はその変化の意味を考えていた。
受け入れられる、という体験のこと
自分を好きになるって、どうやったらできるのだろう。
正直、私にもわからない。自己肯定感を高めるメソッドみたいなものが世の中にはあふれているけれど、うちのサービスはそれを提供しているわけではない。フレンドはカウンセラーではないし、認知行動療法をやるわけでもない。
ただ、ひとつだけ思うことがある。
誰かに「そのまま」を受け入れてもらう体験は、意外と少ない。家族は心配するし、友人は比較の対象になることもある。職場では評価がつきまとう。どこにいても「もっとこうしたほうがいい」が飛んでくる。
そんな中で、ただ「うん」と聞いてもらえる時間がある。「大丈夫だよ」とも言わないし、「がんばって」とも言わない。→「大丈夫」と言わなくていい場所のことは、こちらに書きました
その方が何回か利用するうちに少しずつ変わっていったのは、何かを教わったからじゃなくて、何も否定されなかったから、なのかもしれない。
これは私の推測でしかないけれど。
メッセージを読んだあとのこと
「自分のこと、少し好きになれた気がします」
あのメッセージをもらったとき、嬉しかった。でも同時に、怖くもあった。
この方がまた自分を嫌いになる日が来るかもしれない。そのとき、うちのサービスが何かできるかどうか、わからない。「ふたりしずかに」は魔法じゃない。一度変わったものが永遠に続く保証はない。
ふと思い出したのは、先月読んだエッセイの一節だった。「自分を好きになる必要はない、嫌いじゃなくなるだけで十分だ」という趣旨のことが書いてあった。著者は忘れてしまったけれど、なぜかその言葉が残っている。
たぶん、私がこの仕事で見てきたことに近かったからだと思う。
「少し」でいい
自己肯定感が低くて悩んでいる方に、「自分を好きになろう」と言うのは酷だと思う。好きになれないから苦しんでいるのだから。
でも「少し好きになれた気がする」という言葉には、「気がする」が含まれている。確信じゃない。揺れている。それでいいのだと、私は思う。
100点の自己肯定なんてなくていい。昨日より少しだけ、自分を責める声が小さくなった。それだけで、十分だと思う。
その方がどうなったかは、ここには書けない。ただ、最近もときどき予約を入れてくださっている。毎回じゃないし、月に1回くらいだ。
フレンドに聞いたら、「最近は自分から話題を出してくれるようになりましたよ」と教えてくれた。
それだけのことが、この仕事をしている私にとっては、嬉しい。
あなたがもし、自分のことを好きになれなくて苦しんでいるなら。無理に好きにならなくていい。嫌いな自分のまま、ここに来てくれていい。
次の話は、人に「頼る」ことについて書こうと思う。→頼ることは弱さじゃない

