【オーナーコラム#39】育児で「大人と話したい」が切実になったとき

【オーナーコラム#39】育児で「大人と話したい」が切実になったとき

「大人と話したい。ただそれだけなんです」

ある方が予約のメッセージにそう書いていた。短い文だった。それ以上は何も書かれていなかった。でも、その一行の切実さが、画面越しにぐっと伝わってきた。

お子さんが小さいとのことだった。何歳かは聞いていない。ただ、日中はほぼ一人で育児をしているということ、夫は仕事で帰りが遅いということ、それだけがフレンドに伝えられた。

その方の初回の利用は、通話だった。

目次

お昼寝の1時間だけでいいんです

通話がつながったとき、最初に聞こえたのは「すみません、子どもが寝てる間だけで」という声だったらしい。フレンドはそう報告してくれた。

1時間もない。子どもが起きたら終わり。そういう前提の時間。

私はその報告を読んだとき、少し考え込んだ。1時間にも満たない通話で、この方は何を求めているんだろう、と。でもフレンドの報告を最後まで読んで、それがわかったような気がした。

その方は、ほとんど雑談をしていたという。特に深い悩みを打ち明けたわけでもなく、テレビの話、最近食べたもの、季節の変わり目のこと。そして途中で「すみません、こんな話ばかりで」と笑ったらしい。

フレンドは「いえ、楽しかったです」と返した。

たぶん、この方は「相談」がしたかったのではないと思う。ただ、大人の会話がしたかった。子ども相手では成り立たない、対等な言葉のやりとりが。

育児中の孤独は、説明しづらい

育児をしている方から聞く話で、私が一番印象に残っているのは「孤独」という言葉の使い方だ。

一人きりではない。むしろ子どもとべったり一緒にいる。物理的にはずっと誰かがそばにいる。なのに孤独だという。

それは矛盾のように聞こえるけれど、たぶん矛盾ではない。

子どもは話し相手にはならない。いや、なるのかもしれないけれど、こちらが弱音を吐ける相手ではない。子どもに「今日しんどかった」とは言えない。言っても仕方がない。だから黙る。黙って笑顔を作る。

その繰り返しの中で、自分の言葉がどこにも行き場をなくしていく。

ワンオペという言葉をよく聞くようになった。でも当事者の方が語る「ワンオペ」の中身は、家事や育児の負担だけではないと私は思う。言葉の行き場がないこと。それが一番きつい部分なのではないか。

これは私の推測にすぎない。育児の経験がない私が軽々しく語れることではない。でも、この仕事を通じて何人かの方から話を聞いた限りでは、そう感じている。

ママ友の輪に入れなくても

ある方は、こんなことを言っていた。

「ママ友を作らなきゃと思って児童館にも行くんです。でも、そこで無理に話す自分がすごく疲れるんです」

内向的な方にとって、ママ友の場はハードルが高いことが多い。もともと初対面が苦手で、グループの中で居場所を見つけるのが得意ではない人が、出産を機にいきなりその能力を求められる。

しかもママ友は、ただの友達とはちがう。子ども同士の関係も絡んでくるし、距離の取り方もむずかしい。

「この人とは合わないな」と思っても、子ども同士が仲良しだったら簡単には離れられない。そういう複雑さがある。

だからといって、ママ友を一人も作らなかった場合、今度は「自分は社交性がない母親だ」と自分を責め始める。

どちらに転んでも苦しい。

夜の通話利用の話を以前書いたけれど、育児中の方が夜の短い時間だけ電話で話す、という使い方は実際にある。子どもが寝静まったあとの30分。誰にも聞かれずに、ぽつぽつと話す。

その30分のことを、ある方は「私だけの時間」と呼んでいた。

夫には言えないこともある

育児の大変さを夫に話せばいい、と言う人がいる。それはそのとおりだと思う。でも「話せばいい」と「話せる」のあいだには、かなりの距離がある。

ある方が言っていた。「夫に『疲れた』って言うと、『じゃあ俺が代わるよ』ってなるんです。でも私が言いたかったのはそういうことじゃなくて」

解決策ではなく、共感がほしかった。「大変だったね」の一言がほしかった。でもそれを求めること自体がわがままに思えて、結局「大丈夫、ありがとう」と返してしまう。

人に頼ることが弱さではないと気づけた方の話を以前書いた。→その記事はこちらです

育児中の方にも、この感覚は重なると思う。頼りたいのに頼れない。助けてほしいのに「大丈夫」と言ってしまう。

それは性格の問題ではないと思う。「いいお母さん」でいなきゃ、「ちゃんとした妻」でいなきゃ、というプレッシャーが、助けを求める言葉を喉の手前で止めてしまうのだと思う。

1時間の通話のあとに届いた言葉

最初に紹介した方の話に戻る。

お昼寝の間だけの通話を、その方は月に2回ほど利用してくれた。いつも30分から1時間くらいの短い時間だった。

3回目くらいのとき、通話の最後にこう言ってくれたらしい。

「今日も他愛ない話しかしてないのに、すごくすっきりしました。不思議ですね」

フレンドがその言葉を報告してくれたとき、私は「他愛ない話」の力について考えた。

悩み相談でもない。カウンセリングでもない。ただの雑談。でもその雑談をする相手が、育児中にはいないのだ。

旧友は忙しいか疎遠になっている。ママ友には気を遣う。夫には甘えられない。親には心配をかけたくない。

そうやって全部の扉を自分で閉めてしまったあとに残るのは、子どもと二人きりの静かな部屋だけだ。

その方が「ふたりしずかに」で見つけたのは、答えや助言ではなく、ただ「大人と話す時間」だった。

私はこの仕事をしながら、人が求めているものは案外シンプルなのかもしれないと感じることがある。聞いてほしい。一緒にいてほしい。大人の言葉で話したい。でもそのシンプルなことが、状況によっては手に入らなくなる。

育児はその典型なのだと思う。

全部を解決できるとは思っていない。育児の負担そのものを減らすことは、このサービスにはできない。でも、週に一度でも月に一度でも、「自分の言葉で話せる時間」があることで、少しだけ息がしやすくなる方がいるなら、そこにいる意味はあると思っている。

答えはまだ出ていないけれど、あの方の「不思議ですね」という声は、まだ私の中に残っている。

→次の話:結婚式の「友人代表」問題と向き合った方の話

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