【オーナーコラム#28】家族のことを話し始めて、声が震えていた方へ

【オーナーコラム#28】家族のことを話し始めて、声が震えていた方へ

その方は、最初の30分くらい、他愛もない話をしていた。

カフェのテーブルに置かれたアイスティーの氷がゆっくり溶けていくのを、私はなんとなく見ていた。フレンドが「今日は暑かったですね」と言って、その方が「そうですね」と返して。そんなやりとりが続いていた。

予約時のメッセージには「少し話を聞いてほしいことがあります」とだけ書かれていた。でもその「少し」がどれくらいの重さなのか、会ってみるまでわからないことが多い。

目次

氷が溶けきった頃に

天気の話が途切れて、少し沈黙があった。

フレンドは何も言わなかった。急かさなかった。ただグラスを両手で包むようにして、静かに待っていた。

私はこのフレンドのその「待ち方」が好きだ。

沈黙を埋めようとしない人は、この仕事に向いている。

しばらくして、その方が口を開いた。

「あの……母のことなんですけど」

そこから声のトーンが変わった。さっきまでの穏やかな声ではなくて、少し低くて、少し震えていた。

私は後からフレンドの報告で知ったのだけれど、その方の手も、テーブルの下で握りしめられていたらしい。

友達には言えない「家族の話」

家族のことを話すのは、他のどんな悩みよりも難しいのかもしれない。

友達に話そうとしても、相手にも家族がいる。相手の家族と自分の家族を比べてしまうこともある。

「うちの親はこうで」と言いかけて、相手の顔を見て、やめてしまう。

そういう経験を持つ方は多い。→友達に言えない悩みについてはこちらに書きました

以前、別の方から「家族の話をすると空気が重くなるから」と言われたことがある。その気遣いが、私には切なかった。重くなるのは話の内容じゃない。聞く側の反応を心配しなきゃいけない状況のほうが、よっぽど重い。

第三者だから話せること

その方は、母親との関係について話してくれた。内容はここには書けない。

でも一つだけ言えるのは、その方が泣いたということ。

声が震え始めてから、途中で何度か「すみません」と言っていたそうだ。

フレンドは「大丈夫ですよ」とも「泣いていいですよ」とも言わなかった。ただ、テーブルの上にそっとティッシュを出した。それだけ。

私はその報告を聞いたとき、少し黙ってしまった。

フレンドが正しいことを言ったわけではない。何かを解決したわけでもない。

ただ、その場にいて、聞いて、ティッシュを出した。それだけのことが、なぜこんなに胸に残るのか。

たぶん、「聞いてもらう」ということの中身は、アドバイスをもらうこととは全然違うのだと思う。自分の声で、自分の言葉で、誰かの前で話す。それ自体に意味がある。

頭ではわかっていたつもりだったけど、こういう話を聞くたびに、改めて思い知る。

運営者として、正直に感じたこと

その方は帰り際に「こんな話、初めて人にしました」とフレンドに言ったそうだ。

この言葉を聞いたとき、嬉しいとは思わなかった。正確に言えば、嬉しさよりも先に「ずっと一人で抱えていたのか」という気持ちが来た。

何年も、もしかしたら何十年も、家族のことを誰にも話せなかった人がいる。その時間を思うと、手が止まる。

私はカウンセラーではない。フレンドもカウンセラーではない人がほとんどだ(国家資格を持つフレンドもいるけれど)。

だから家族の問題を「解決」する力は、私たちにはない。

でも「話す場所」を用意することはできる。

家族の悩みは、友達に話すと関係が変わってしまうかもしれないという怖さがある。

職場の人には絶対に知られたくない。カウンセリングは敷居が高い。

かといって一人で抱え続けるのは、限界がある。

そういうとき、利害関係のない第三者がいることの意味は、私が思っていたよりずっと大きかった。

この仕事を始めた頃は、ここまで深い話を聞くことになるとは想像していなかったのが正直なところだ。

ふと思い出したことがある。私自身、離婚の調停をしていた頃、誰にも相談できなかった。友人には重すぎるし、親には心配をかけたくなかった。

あのときの自分に、話を聞いてくれる誰かがいたら。そう考えると、この仕事をやっている理由が、また一つ増える気がする。

話すことは、弱さじゃない

家族の問題を人に相談する。それを「弱いこと」だと感じている方がいる。「自分の家のことは自分で」と思い込んでいる方がいる。

でも、あの日フレンドの前で声を震わせていた方は、弱い人ではなかった。

むしろ、ずっと一人で耐えてきた人だった。話すと決めたこと自体が、勇気だったと私は思う。

→人に頼ることについて、もう少し先の話で書いています

あなたがもし、家族のことで誰にも言えないまま過ごしているなら、一つだけ伝えておきたい。

話したからといって、何かが劇的に変わるわけではない。母親との関係が修復されるわけでもない。

でも、あの方が帰り際に「少しだけ、息がしやすくなりました」と言ってくれた、あの一言は本当だったと思う。

答えが出ない話をしてもいい。結論なんか出なくていい。ただ声に出すだけで、少しだけ、胸の圧が減ることがある。

私も、この仕事をしながら、まだそのことの意味を考え続けている。

→次の話:「大丈夫」って言わなくていい場所をつくりたかった

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